US進学総合研究所

大学・高専機能強化支援事業(支援1)初回公募選定結果について考えてみる


2023年7月27日(木) US進学総研

 2023年7月21日、令和4年度第2次補正予算である3002億円基金による「大学・高専機能強化支援事業」の初回公募選定結果が発表されました。この支援事業は2つあり、「支援1」は、公立と私立大学を対象に学部再編等による特定成長分野への転換等、「支援2」は、国公私立大学(原則として大学院段階の取組必須)と高専を対象に高度情報専門人材の確保に向けた機能強化となっています。このうち、当研究所が今回注目したのは「支援1」。

「支援1」・・・学部再編等による特定成長分野への転換等

① 2023年度から2032年度までの10年間で申請することができる
② デジタル・グリーンを中心とした成長分野、学位分野としての理学関係・工学関係・農学関係分野(いずれかの学位分野を含む融合分野も可)が対象
③ 学部再編等に必要な経費を定率補助で最大20億円(施設設備整備費等の初期投資を中心)支援
④ 2027年度までの申請や、収容定員を増やさない申請は補助率を優遇
⑤ 採択計画は全体で約250件の支援
⑥ 検討段階の支援は最長3年間を想定、支援期間全体は完成年度まで原則8年以内(最長10年)
⑦ 審査の観点は、学生数拡充、学生確保の見通し、企業・自治体等との連携、初等中等教育段階との連携、女子学生確保等

上記のような条件で申請をしているかと思います。初回67件(72学部)申請があり、すべてが採択されています。

■「大学・高専機能強化支援事業」の初回公募選定結果について(報道発表資料)(令和5年7月21日)

早く申請しないと計画している250件に達しそう

 初回採択が67件(72学部)となりましたが、計画では全体で約250件となっていますので、これが学部であるとすると、残り約178学部となります。2027年度までの申請は補助率が優遇されることもありますし、検討段階においても最長3年間支援があることを考えると、来年度申請する大学はかなり増えるのではないかと考えられます。今回採択された中には、2024年4月新設・改組予定の学部学科(下表参照)も含まれています。これらの新設を構想していた段階では存在していなかった支援金なので、今回の採択による支援はとても助かっていると思います。2024年4月新設・改組予定の学部学科の中で、京都府立大学学部学科再編、熊本県立大学公共・ビジネス・情報専攻(専攻制導入)、大同大学建築学部、阪南大学総合情報学部、名古屋学院大学経営学部データ経営学科の5件については支援対象になると考えていましたが、申請もありませんでした。支援基準に当てはまっていなかったと思いますが、採択された学部学科と分野はほぼ同じに見えるため、不思議な感じがします。また、定員増も5件(下表参照)含まれていました。学部学科の新設・再編ではなく定員増も対象となると、申請はますます多くなりそうです。

2025年度以降新設・改組予定 
学部学科のキーワード「情報」「環境」「データサイエンス」「農」「食」

 採択された67件(72学部)のうち、2024年4月新設分15件(15学部)を除き、さらに既存学部学科の定員増5件(5学部)を除くと、2025年度以降の学部学科新設や改組は47件(52学部)となります。この47件の学部学科の中に、どのようなワードが含まれているかを分析してみると、以下のように「情報」「環境」「データサイエンス」「農」「食」のワードが上位に出てきています。デジタル・グリーンを中心とした成長分野ということを考えれば妥当なのですが、「環境」「健康」のところは意外でした。また農学系も多くなるとは予測していましたが、「食」が多くなっているのも意外でした。

やはり「情報」が入った学部学科が一番多い

 文理融合も対象になることもあり、「情報」が入った学部学科が17件と一番多くなっていました。情報学部の新設が3大学(大阪経済法科大学、関西国際大学、松山大学)。情報科学部の新設が2大学(北海道科学大学、桜花学園大学)。情報工学部の新設が1大学(福山市立大学)。その他は、環境や農業やイノベーションなどのワードと合わせた学部名の新設が出ています。

「データサイエンス」「デジタル」はここ数年のトレンド

 滋賀大学データサイエンス学部が新設されたのは2017年4月。これ以降、横浜市立大学、武蔵野大学、立正大学など「データサイエンス」を使った学部学科名は大きく増えました。2025年度以降に新設予定としている横浜市立大学「新データサイエンス学部」というのは正式名称ではないにせよ、とても気になります。

 「デジタル」を使った学部学科名は、デジタルハリウッド大学が、大学名とともに学部名でも「デジタル」というワードを使用していましたが、その他の大学ではほとんど使われていませんでした。2018年4月大阪電気通信大学総合情報学部デジタルゲーム学科が新設され、その後は、2020年4月東京国際工科専門職大学工科学部デジタルエンタテインメント学科(翌年に大阪と名古屋にも開学)、2023年4月関西外国語大学外国語学部英語・デジタルコミュニケーション学科とビジネス・ブレークスルー大学経営学部デジタルビジネスデザイン学科、2024年4月には千葉工業大学未来変革科学部デジタル変革科学科と、西九州大学デジタル社会共創学環の2大学で「デジタル」が入った学部学科が新設される予定となっています。

「農」と「食」、女子に人気の組合せ

 農学系学部新設の中に、中央大学農業情報学部が入っています。GMARCHクラスの中での農学部は、明治大学しかありませんしたが、中央大学が加わることになり、国公立農学部との併願も多くなるのではないかと予測されます。また、順天堂大学は「農」と「食」が両方とも入った学部名「食農学部」となっています。食農学科や食農学類は現在でも存在していますが、食農学部はありませんので、今回が初となります。農学系学部の中でも、「食」に係る部分は女子に人気が高いのですが、管理栄養士養成学科や家政系学部の食品系学科・栄養系学科との競合も激しくなるのではないかと考えられます。

「環境」が多いのは何故?

 「環境」というワードが入った学部学科は、1990年慶應義塾大学の環境情報学部新設以来、文系理系学部ともに全国的に増えてきましたが、2015年以降は逆に減少する傾向も見られたワードです。「環境」という意味は理解できるのですが、「〇〇環境」と「環境〇〇」と付く学部学科も複数あり、高校生にも学ぶ分野が分かりづらいと言われていました。しかし今は、成長分野として出ている「グリーン」という言葉から「環境」を想像する人も多いのかもしれません。また、SDGsに関する勉強を、小学校から行っているため、昔と違って「環境」という言葉の理解が進んできているのかもしれません。立教大学と東洋大学の新設学部でこの「環境」が入っているのは、今後の学生募集にも大きな影響があると思います。農学部に近い分野として女子に多く受験される学部学科になる可能性がありそうです。

学部学科名に「グリーン」が入るのは初!

 成長分野のキーワードとして「デジタル・グリーン」という言葉はここ数年でよく出てきているのですが、「グリーン」というワードは学部学科名に現時点では使用されていません。しかし、今回新設予定の中には、4大学あります。このうち、共愛学園前橋国際大学については、「デジタル・グリーン学部デジタル・グリーン学科」になっていますので、成長分野名が両方入っている学部学科名となっています。

「健康スポーツ科学」も理工農融合分野?

 今回発表された支援学部の中に、中央大学健康スポーツ科学部も入っています。詳細が発表されていませんので分かりませんが、これも理工農を含む融合分野なのでしょうか?スポーツ系学部は、理系型入試を行っている大学もあり、もともと文理融合の内容もありますので問題はないように思いますが、67件の中で「スポーツ」が入っているのは中央大学だけとなっています。

「変革」「恐竜」「統計」「DX」も学部学科名で使われるのは初。

 2024年度新設予定になっている千葉工業大学情報変革科学部の「変革」。2025年度以降新設予定になっている福井県立大学恐竜学部の「恐竜」、青山学院大学統計・データサイエンス学部の「統計」、桃山学院大学工学部地域連携DX学科の「DX」。学部学科名として初めて使用されるワードが多く出ています。「恐竜」は他大学では真似はできないでしょうが、そのほかについては、他大学でも採用する大学が出てくる可能性はあると思います。

文系学部しか設置していない大学が理工農系学部を新設

 今回採択されている中に、文系学部しか設置していない大学が、理工農系学部を設置予定としている例が複数あります。2024年4月新設では、明治学院大学情報数理学部、麗澤大学工学部と金沢学院大学情報工学部。2025年4月新設構想中と発表しているのが、追手門学院大学理工学部、安田女子大学理工学部。これ以外にも、福山市立大学情報工学部、桃山学院大学工学部、日本福祉大学工学部、広島修道大学農学部も出ています。理系イメージのない大学が、理工系学部を設置した例は、今まで数が少なく、分野として不合格者が大量に出ている「建築系」などを中心として組み立てることでしか成り立っていませんでした。今回は、「情報」「データサイエンス」などの分野が中心になります。教授の確保と同時に、学生募集で集めきれるかどうかが大きなポイントになることは間違いなさそうです。

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